ウラジーミル・ルパンディン
ロシア科学アカデミー・社会学研究所(ロシア)
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Lupan-j.html
しかしながら,放射能汚染地域から病院へやってきた理由を記した入院指令票の記述は検閲をうかがわせず,われわれの興味を惹くのは,カルテの中に残っていたその指令票の内容である.
入院指令票に記されていた入院理由は,たとえばつぎの通りである.
第2度急性放射線障害
甲状腺からの放射線レベル-10~16ミリレントゲン/時
全身の衰弱,頭痛,腹痛,吐き気,おう吐,下肢のむくみ
汚染地域の幼児
放射線量上昇地域の滞在と血液検査値の変化(白血球数2500)のための検査入院
吐き気,おう吐,唾液分泌の増大,甲状腺からのガンマ線3000マイクロレントゲン/時以上
放射能汚染,甲状腺3000マイクロレントゲン/時以上
白血球減少:白血球数2300,頭痛
放射能汚染との結論で救護所から転送.甲状腺3ミリレントゲン/時以上,白血球数2900
事故時にチェルノブイリ原発から300mの地点に滞在,白血球数2900
放射能汚染,肝臓5~10ミリレントゲン/時,甲状腺1.5ミリレントゲン/時
顔,手首の放射線火傷
放射線障害,鼻血
野戦病院へ送られてきた理由の記述とともに,患者の自覚症状についての記述も注目される.頭痛,急な衰弱,吐き気をともなう複合症状がもっとも多く,全体の患者の30%以上に達している.これは,自律神経失調症と呼ばれる症状である.つぎに多い複合症状は,おう吐,腹痛,めまい,食欲不振,心臓部の痛み,口内の乾きや苦みといった症状で,10%程度である.さらに,神経・循環系失調(自律神経失調+心臓部の痛み)といった症状が認められる(13%).
カルテに記されている患者の訴えを一覧にまとめると,
頭痛(30例),急な衰弱(29),おう吐(20),めまい(10),心臓部の痛み(8),吐き気(7),食欲不振(7),口の渇き・苦み(7),唾液分泌増加(3),関節痛(3),喉のがらがら(3),眠気(2),下痢(2),睡眠障害(2),右の肋骨下部(肝臓)の痛み(2).1例ずつ記録されているのはつぎの症状:高熱,便秘と排尿困難,行動の遅鈍,鼻血,出血,耳鳴,皮膚痒症,発汗,から咳.